自筆証書遺言と公正証書遺言(10)

    遺言書の書き方②

前回は「遺言書」の具体的な書き方についての途中までだったね。

 

そう。では、その続きについて触れてみよう。「第1条」なんて普段使ったことのない表現がどうもしっくりいかないという場合には、一、二、三という数字を使う方法でもよいということは前に話したね。そのような書き方で例を示してみようか。


             遺言書
         
     遺言者山川太郎は、次のとおり遺言する。

     一、遺言者は、妻山川花子に次の不動産を相続させる。
      (一) 土 地
         所 在   ○○県○○市○○○
         地 番   123番1
         地 目   宅地
         地 積   234.5m2

      (二) 建 物   
         所 在   ○○県○○市○○123番1
         番号  123番1
         種 類   居宅
         構 造   木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺2階建
         床面積   1階 88.8m

                       2階  88.8m

                          
     二、遺言者は、長男山川一郎に株式会社○○銀行××支店の遺言者名義の預

       金債権全部を相続させる。

     三、遺言者は、株式会社□□銀行△△支店の預金債権全額のうち、その二

       分の一 を遺言者の長女里山松子に相続させ、二分の一を孫の里山竹

       男に遺贈る。

 こんな風に書けばよい。また、1,2,3、というアラビア数字は変更されやすく心配だという人は、漢字を用いて壱、弐、参、と書けばいいね。例えば、「壱弐参.四平方メートル」などと表示するのさ。         
              

  な~るほど。確かにこの表現の方がなじみやすいね。でも、なぜ二分の一なんて表現を使うの?1,000万円の財産ならば、500万円と書けばいいじゃない?

 

確かに、そういう方法で書くこともある。例えば、「700万円は○○に相続させ、残額は総て××に遺贈する。」としてもよい。遺言は書いてから効力が発生するまでには一般的にそれ相応の期間があるので、預貯金の額も変わってくる。だから割合で書いておく方が便利なわけだ。いちいち書き換えなくて済むからね。

 次に、祭祀財産(さいしざいさん)の継承者を決めておくことも大切なことだね。

「祭祀財産の継承者」ってな~に?

 

祭祀継承者とは、お墓や仏具などを引き継いで祖先の祭りごとをする人のことさ。
一般の財産とは別の扱いをするんだ。例えば、こんな風に表現すればいい。

   四、祖先の墓、位牌等の祭祀財産は、法事一切を含め長男山川一郎が承継る。

 

◆解説
    法定相続分と指定相続分
  1.  相続分には法定相続分と指定相続分があります。相続は被相続人が自分の財産を誰に

どれだけ渡すかを決めて おくことを基本としており、これを指定相続分と言います。しかし、それをしなかった場合の分け方を法律で規定したのが法定相続分です。次のとおりです。

     (1) 子と配偶者が相続人であるときは、子の相続分および配偶者の相続分は、各二分の一

               です。子の数が複数の場合は、その二分の一の相続分を員数で等分します。しかし、嫡出

               (ちゃくしゅつ)で ない子、つまり正式な結婚をしていない夫婦の間から生まれた子は、嫡出

               である子の二分の一となります。
       この点については、憲法で定める法の下の平等に反するとしていろいろと議論されており

               ますが、それはともかく、現在の法制度ではそうなっているのです。

     (2) 配偶者と直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は三分の二、直系尊属の相

                続分は三分の一となります。(直系尊属という言葉につきましては、自筆証書遺言と公正証

                書遺言(4)をごらんください。

     (3) 配偶者と兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は四分の三、兄弟姉妹の相

                続分は四分の一です。

     (4) 代襲相続人は非代襲者と同じ相続分です。代襲相続人とは、兄弟姉妹のうちに亡くなっ

                た人がいる場合、その人に子がいれば、その子が亡親に代わって相続するという制度で

                す。代襲者が数人いるときには、頭数で均等に分けることになります。

    2.  相続人には、順位があり、上記の(1)~(3)の順番になります。つまり、子や孫がいれば親や兄弟姉妹には相続権が発生せず子や孫がいない場合でも、親や祖父母が健在であれば兄弟姉妹には相続権がありません。
しかし、配偶者はそれぞれの順位の人とともに必ず相続人になります。それは、一方配偶者が財産を蓄積できたのは、他方配偶者の内助の功があったればこそという考えに基づいているわけです。

     3.  ところで、最近は遺言をする人も増えてはきましたが、まだまだそう多くはありません。そうなると、相続は法定相続分かあるいは分割協議をすることになりますが、これは一見簡単そうに見えても、現実にはなかなか難しい問題が内在しているのです。相続分を割合で定めていることから、現金や預貯金ならばすぐに分けられても、土地や建物になるとそう簡単にはいきません。25坪の土地に対し9人の相続人がいるという例もありましたが、物理的には分割可能でも、財産的価値となると皆無に等しくなってしまいます。更に、法定相続分のとおりに分けることが本当に平等なのかということも問題になります。以前にも記しましたように、相続人の置かれている条件はみな同じとは限りません。生前贈与を受けている人、親の事業を手伝い老後の面倒も見た人、病弱で働けない人など、相続人同士でも置かれた立場はみな違うのです。それを法定相続分通りに分ければよいとなると、その分け方自体が不平等になってしまいます。
また、指定相続分を決めておくと、相続人同士で分割の協議をしなくて済むという利点もあります。遺産をめぐる話し合いは誰でも気が重いものです。「うちは法律通りに分ければ良いので心配ない。」などと無責任なことは言ってはいられません。相続人同士の平和のためにも、生前にしっかりと準備をしておくことが大切です。