自筆証書遺言と公正証書遺言(11)

    遺言書の書き方③

    前回は祭祀財産の承継についてのお話までだったね。
 そう。ではその続きについて触れてみようか。預貯金と並んで株式を所有している人も少なくない。これについても相続人を指定しておく必要がある。
 第5条(株式の相続)
   私の所有する株式会社○○商会の株式総てを二男山川次郎に相続させる。
 こんな風に書いておけばいい。また、高価な貴金属や書画骨董品などがある場合には、他の動産とは別にして、誰にあげたいのかを表示しておくといい。
つまり財産的価値の或るものは、細大漏らさず誰に何を相続させるのかを、はっきり分かるように書いておくということが、大切なわけね。
そういうことだ。前にも話したように、遺言の効力が発生するときにはそれを書いた本人は亡くなっているので、「お父さん、これどういう意味なの?」なんて聞くことができない。はっきり分かるように表現しておかないと、その解釈をめぐって意見の食い違いが出てきて紛争になりかねないんだな。だから、事細かに分かりやすく書けば書くほど良いということになる。
   それで回りくどい表現になることもあるんだね。その他にはどんなことを書いておいたらいいの?
 次のようなことも入れておくと安心できるね。
 第6条(その他の財産の相続)   この遺言書に記載してある財産を除くその他の財産については、総てを長男山川一郎に相続させる。
そう書いておくとなぜ安心できるの?
  もしこれを書いておかなかった場合、遺言書を作った期日より後に蓄積された財産や、新たに発見されたものがある場合、それを誰が引き継ぐのかを相続人全員で話し合って決めなければならなくなる。それでは遺言書を作った意味がなくなってしまうからね。こう書いておけば安心できるというわけだ。
本当に細かいところまで配慮しなければならないんだね。
そうなのさ。だから自筆証書遺言は簡単なようだけど、結構問題になることが多いんだな。つまり、遺言なんて一生のうちで、そう何べんも書くというものではない。書きなれている人なんて、そう多くいるものではないんだな。だから問題の起こらない書き方が出来る自信のない人は、自分で書かなくてもよい「公正証書遺言」の方をお勧めするね。無効になった遺言書ほど、始末の悪いものはないね。どんなに平等に分けたつもりでも、相続人一人ひとりにとってみれば皆思惑が違うから、満足するということはないといってもいい。そんなときに遺言書は残してあったが、そこに書かれている内容が無効だということになると、返って火種をまくようなものだからね。
つまり、無効になるような遺言書ならばむしろ作らない方がいいというわけ?
そう。心して作る必要があるわけだ。さて次に遺言執行者のことも書いておこう。
 第7条(遺言執行者)
   この遺言の執行者として長男山川一郎を指定する。  
「遺言執行者」って何をする人なの?
 その遺言書に書いてあることを実行する人のことさ。遺言書はそのままでは単に絵に描いた餅にすぎない。誰かがその遺言書に書かれている内容を、実行しなければならないわけだが、その役割を果たす人が遺言執行者と呼ばれるひとなんだ。

 

 ◆解説

    単純承認・限定承認・相続放棄

 1.  相続が発生すると、被相続人の財産の総てが相続人に帰属します。相続人が数人いれば、その人たちが共有するという状態で引き継ぐことになります。
 相続財産には積極財産、つまり土地や家屋、預貯金、株式などといったプラスの財産と、借金や保証債務などマイナスの財産(消極財産)の二つが存在します。プラスの財産は誰しも相続したいわけですが、マイナスの財産となるとなるべく相続したくないわけです。ここに相続の単純承認・限定承認・相続放棄の問題が出てくるのです。

 2. 単純承認
  (1) 単純承認とは相続人が無条件で相続財産の受け入れを承認することであり、被相続人の債

    務(借金など)についても
     無限責任を負うというものです。つまり、相続した財産で被相続人の負債が賄いきれない場

    合には、自分の財産からその
     不足分を負担しなければならないわけです。この場合、相続人が数人いれば、それぞれの

    相続分に応じて債務も負担する
     ことになり、一人の相続人に債務だけを押しつけて、プラスの財産のみ他の相続人で分け合

    うなどという、虫のいい話は
     認められません。そうでなければ相続人のなかでも発言力の弱い人にしわ寄せが行ってしま

    うばかりでなく、資力のない
     相続人に負債が集中することは、債権者(借金の貸主など)にとっても大変な迷惑がかかる

    ことになるからです。

  (2) それでは、単純承認はどのようにすればよいのでしょうか。これについては民法は一定の処

    分や行為があった場合には、
     相続人の意思がどうあれ単純承認をしたものとみなす(そのように取り扱う)と定めていま

    す。法律で定められていることから、これを「法定単純承認」と呼んでいます。具体的に見てみ

    ましょう。

   ① 相続人が相続財産の全部または一部を処分したときには、単純承認をしたことになります。

    処分とはどんなことかと言うと、例えば相続した預貯金を銀行から引き出して使ったり、相続し

    た不動産を売り払ったりすることです。
     判例は高価な衣類を形見分けとして人にあげてしまうことも、単純承認をしたことになると

    言っています。

   ② 相続人が自分のために相続が開始したことを知った時から3カ月経過すると単純承認とみ

    なされます。相続の開始を自分自信が知った時から起算されるわけですから、例え他の相続

    人が相続の開始を知っていたとしても、自分が知らない限りその期間の進行はありません。ま

    た、相続人には被相続人に負債がどれほどあるのかすぐにはわかりません。そこで、まず
    被相続人の財産がどれほどあるのか調査しなければなりませんが、その間に3カ月などすぐ

    に経過してしまいます。
      そのような場合には相続関係者から家庭裁判所に申し立てをすれば、その期間を引き延

    ばしてもらうことが出来るようにっています。

   ③ 相続人が限定承認や相続放棄をした後でも相続財産を隠匿したり、自分のために使ってし

    まったり、故意に相続財産目録に記載しなかった場合には、単純承認とみなされます。
      隠匿とは相続財産を隠してしまうことであり、相続財産目録に記載しないとは、遺産の一覧

    表を作った時に故意にそこから省いてしまうことです。私達が一般的に相続するというのは、

    特別の意思表示をすることなく3カ月を経過することにより、自動的に相続するというこの単純

    承認によることがほとんどです。