自筆証書遺言と公正証書遺言(12)

    遺言執行者

  パパさん、遺言執行者にはどういう人がなれるのか説明してください。
 民法には、遺言執行者にはどういう人がなれないかという形で決められているんだな。それによると、未成年者、つまり満20歳なっていない人と破産をした人だ。だからそれ以外の人ならだれでもよいということになる。例えば、相続人の中の長男であるとか、親戚の人や知人でもよい。一人に限らず、数人指定してもかまわないんだよ。とは言うものの、実際問題としては、相続人の誰かが遺言執行者になると、不正を働くのではないかと他の相続人が疑心暗鬼になり、そこに諍いが生じないとも限らない。
また、遺言執行をするにはそれなりの法律知識も必要とされることから、そういうことを専門的に手掛けている行政書士とか弁護士などを指定しておくという方法もよくとられているんだな。
   ふ~ん、身内同士だと難しいこともあるわけね。その点、専門家にお願いすれば確かに安心できるってわけか。それで、遺言執行者はどんな方法で選んだらいいの?
これについても、遺言をする人が遺言書の中で指定しておかなければならないと決められている。
つまり、生前に決めておくことはできない。もっとも、自分が直接執行者を指定しなくても、その指定行為を誰かに委託する(誰かに頼んで代わりに執行者を選んでもらう)という方法でもかまわない。無論遺言書に書くわけだがね。
要するに、遺言で自分が直接遺言執行者を選んでおくか、或いは誰かにその選ぶことを頼んでおけばいいってことね。そこで、もし遺言者が遺言執行者を決めておかなかった場合には、どうすればいいの?
特に問題が起きる恐れがなければ、相続人同士で協力して遺言書のとおりに分ければいい。
しかし、どうしても遺言執行者が必要であるという場合には、家庭裁判所に申し立てれば信頼のおける人を選んでもらえるんだな。
   遺言執行者が必要な場合と言うのはどんなときなの?
子の認知や相続人の廃除の場合には遺言執行者が必要とされている。認知とは正式な結婚以外で生まれた子に対し、それを自分の子と認める法律行為であり、相続人の廃除とは、被相続人に対し虐待を加えたり屈辱したりした場合に、そういう行為をした人を相続人から除いてしまうことなのさ。
  ふ~ん! それで、遺言執行者に指定された人はどんなことをするの?
 遺言執行者には絶大な権限が与えられている。つまり、相続財産を管理して、遺言書に書かれてあることを実行するために必要な全てのことが出来るんだ。だから、例え相続人といえども遺言執行者の行為を妨害したり、相続財産を勝手に処分することなども禁止されている。つまり、相続人がしたその処分行為は、総てが無効になるということだな。
遺言執行者にはいろいやるべきことはあるが、まずは、相続財産を調査してその目録を作ることだね。
遺言書には財産についてその処分方法が書かれているわけだが、そこに書いてあることと、実際に存在する財産とが必ずしも一致するとは限らない。つまり、遺言は作ってからその効力が発生するまでにそれなりの時間が経過するのが一般的であることから、財産に増減が生じることが少なくない。また、遺言書に書いたからといって、遺言者がその財産を使えなくなるというものではないから、場合によっては遺言書には書いてはあるが、実際には存在しないという場合も出てくる。例えば、乗用車を長男に相続させると遺言書には書いたが、その車が古くなったために生前に処分してしまったという場合などがそれに当たる。だから、相続が発生した時点で相続財産が実際にどれほどあるかを調べてみて、それを書きだしたものが財産目録なのさ。
それを相続人全員に報告することになるわけだ。

 

 ◆解説

     単純承認・限定承認・相続放棄(その2)
 
 1. 前回は相続の単純承認に続いて、今回は限定承認について説明することにいたします。
限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の負債についての責任を負えばよろしいという制度です。ちょっと分かりにくいので例示してみましょう。
 被相続人が2千万円のプラスの財産(預貯金や株式、不動産など)と3千万円のマイナスの財産(借金)を残した場合、負債を全額解消するには1千万円不足するので、このままでは払いきれません。この場合、単純承認ならば相続人が自分の財産をつぎ込んででも借金を全額返済しなければならないわけですが、限定承認をしますと、プラスの財産である2千万円の範囲内で弁済すればよく、残りの負債は支払い責任が免除されるというものです。つまり残債務1千万円は返さなくても強制執行の対象にはならないというわけですね。限定承認は相続人が一人ならばご自分の判断だけで出来ますが、複数いる場合には、全員が共同して行わなければなりません。
一人でも反対したり、誰かが単純承認をしてしまった場合には、もう限定承認の道は閉ざされることになります。
相続関係を複雑ににないためにそのような方法がとられているわけですが、ここが単純承認や相続放棄と大きく違うところです。

 2. 限定承認が制度として作られた趣旨は、被相続人の負債が多額に及ぶ場合に、相続人に債務全額の負担を強いるとなると、あまりにも過酷な結果になることから、相続財産以外の部分については責任を免除しようということから来ています。つまり、1千万円の借金は残るけれども支払いについては免除するというものですから、その債務に保証人がついていた場合には、その保証人は1千万円の弁済義務を免れることは出来ないわけです。
 限定承認を行う方法としては、3カ月以内に相続財産がどれほどあるかを調査して、その目録を添えて家庭裁判所に申し立てをします。裁判所で審査をした結果、限定承認が認められると、相続人は相続財産を自由に処分できなくなり、清算が開始されます。清算はまず限定承認者が相続財産の総ての債権者に対して自分たちが限定承認をしたこと、及び2カ月以上の間で期間を決め、相続財産に対し債権を持っている者は、支払い請求をするよう官報で公告します。この公告により申し出た債権者と、予めわかっている債権者に対してそれぞれの債権額の割合に応じて、支払いをしていくことになるわけです。

 3. 被相続人の財産がプラス・マイナス合わせてどれほどあるのか、すぐにわかる相続人などいないでしょう。それを知るためには3ヶ月間で調査をすることになるわけですが、相続財産が複雑でとてもこの間では調べきれないという場合には、家庭裁判所に申し立てて期間を延長してもらうことも可能です。こうして調査した結果、積極財産に比べて消極財産の方が多額に及ぶことが明らかになった場合には、相続放棄(つまり相続をすることを拒否する)という方法をとることも制度的には許されております。しかし、調査をしてはみたものの、プラス・マイナス全額がつかみきれず、どちらが多いのか分からないという場合にはとても不安です。うっかり単純承認をしてしまって、思わぬ負債を抱え込むことになったら大変なことですから。そのようなときにこそ、限定承認が威力を発揮するのです。
引き継いだ財産の範囲内で負債を支払えばよいのですから、ご自分の財産は安泰です。また、限定承認をしておくことによって次のような利点もあります。多額の借金があるにはあったが、相続財産である株式や不動産を清算したら、総ての負債を弁済した上に、なお余りが出たということがないとも限りません。そのような場合には、残った財産は総て相続人のものになるからです。
   なお、相続放棄につきましては、次回に解説いたします。