自筆証書遺言と公正証書遺言(17)

    公正証書のよいところ② 検認の手続き不要

   パパさん、前回は遺言をl公正証書で作ったらどんないいことがあるのかについてのお話の途中までだったね。
そうそう。説明の途中で自筆証書遺言の加除訂正をするにはどうしたらよいのかという説明に移ってしまったわけだな。それでは、続きを話してみることにしよう。
 まず、なんと言っても公正証書遺言は検認の手続きをしなくてもよいというのが大きな利点だね。検認というのはこれまでにも何回か出てきたが、自筆証書遺言を家庭裁判所に申し立てて遺言書の存在を確認してもらう手続きのことだ。これをしないと遺言として公に通用しない。例えば、不動産の名義変更登記を申請したり、預貯金の凍結を解除しようと法務局や銀行に持ち込んでも遺言として取り扱ってもらえないんだな。「家庭裁判所で検認を受けてから来てください」な~んて言われてしまうんだよ。
  ふ~ん!  その「検認」の手続きというのは難しいの? 
  難しいか難しくないかと問われれば、難しくはないだろうな。しかし大変だ。順を追って説明してみよう。先ず、家庭裁判所から、「遺言書検認申立書」という書類をもらってきて、それに申立人と遺言者の本籍・氏名・申し立ての実情(遺言書は封印されているのか開封のものか、どのような状況下で発見され、それを誰がどのようにして保管してきたのかなど)を書く。これは項目にそって書き込めばよいのであるからさほど問題はない。次に、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本除籍謄本類を全て取り寄せなければならない。この作業は簡単ではない。
  生まれてから死亡するまでの戸籍を取り寄せるなど、聞いただけでも大変そうだね。
  その通りだ。いま日本の社会は、個人情報の保護という方向に大きく動いている。自分の戸籍を取り寄せるにしても本人確認が徹底されているため、公に身分を証明するもの、例えば運転免許証、パスポートなどがないと請求しても受理してもらえない。ましてや、遺言書の検認は自分以外の人の戸籍を取り寄せるものであるからさらに困難を極める。
  確かに、個人情報の保護については、とても厳格になっているようだね。
  そればかりではないんだな。その人の戸籍がどのような変遷を経て現在戸籍に至っているかなどすぐに分かるものではない。住民票と戸籍とは常に一致しているというものではないから、両方が同じ場所にあるとは限らない。それを探しあてなければならないのだから大変なのさ。
  どのようにして探すの?
  現在戸籍が分かっていれば先ずそれを取り寄せる。現在戸籍が分からなければ、最終住所地の住民票を取り寄せてみる。その場合、戸籍の記載のある住民票を請求しないと、戸籍の記載のない住民票が出されてしまうので要注意だ。それを取れればそこに現在戸籍が何処にあるのかが書かれているので、その戸籍が存在する市町村から現在戸籍を取り寄せることになる。戸籍が手元に届いたら早速それを見てみよう。すると、そこに何処から転籍したかが書かれている。例えば「昭和○年○月○日○○県○○市○○1357番地より転籍」というように。そこ、転籍元の市役所へ申請してその役所に保管されている戸籍を取り寄せる。そしてそれを見て、更にその前の転籍元が書いてあれば、再びそこに書かれている市町村から取り寄せなければならない。この作業を「戸籍を追う」などと呼ばれているが、このようにして順次遡って、生まれたときの戸籍にたどり着くまで取り続けるのさ。
  な~んだか気の遠くなるような作業だね。近くの市町村だけならまだしも、国内各地の市町村び及ぶ場合には、超大変な作業ということになるね。

 

◆解説

     特別受益と寄与文(3)


    1.  今回は、生前贈与などで特別受益を受けた相続人とそうでない相続人との間の調整方法はどのように するのかについて説することにいたします。
 それを簡単に申し上げますと、①実際に存在する相続財産に贈与分を加算して、②その合計金額の中から、 そのひとが既に贈として受け取っている額を差し引いて、③残りの部分のみを受け取ることが出来るということ なのです。少々分かりにくいので、具体的な数字を当てはめて計算例をしめしてみましょう。

  2.  ある人に相続が発生して、相続財産が6,000万円あり、相続人は妻・長男・長女・次女の4人であったとします。これを法定相続分に従って分割するとすれば、

      ①6,000万円×2分の1=3,000万円 (妻の取り分)
      ②6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円 (長男の取得分)

    ③6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円 (長女の取得分)
    ④6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円 (次女の取得分)

 ところが、長男はマンションを購入するとき被相続人から 500万円を援助してもらい、長女は嫁ぐ時に持参金として400万円を受け取り、妻と次女は特に何も受けていないとしましょう。この場合の長男の500万円と長女の400万円は特別受益に当たりますから持ち戻しの対象として計算することになります。
    計算式は次のようになります。

     6,000万円+500万円+400万円=6,900万円で、これが相続財産であるとみなします。
    つまり、実際には6,000万円の相続財産しかないけれど、特別受益を戻したものとみなして計

         算の基礎とする
    ことから、これを「みなし相続財産」と言います。計算してみましょう。

      ①妻の取り分   6900万円×2分の1=3,450万円
      ②長男の取り分  6900万円×2分の1×3分の1-500万円=650万円
      ③長女の取り分  6900万円×2分の1×3分の1=1,150万円

    この4人の相続財産の取得分を合計すると、実際存在する相続財産の6,000万円になるという

          わけです。
    つまり、現実にある 6,000万円を上記のように分けることによって公平性が保たれることにな

          るのです。

 3.    では、この事例で長男が受けた贈与が、1、500万円であったとすればどうなるでしょうか。
(6,000万円+1、500万円+400万円)×2分の1×3分の1=1,316万円で、ここから1,500万円を差し引くことになります。そうなりますと、長男の相続分1,316万円より既に受け取っている贈与分の1,500万円の方が184万円多い金額になってしまいます。その超過分をどうしたら良いのか、つまり長男はその184万円を戻さなければならないのかという問題が生じます。この場合、長男にはその184万円を戻す義務はありません。
民法第903条2項には、「遺贈または贈与の価額が、相続分の価額にひとしく又はこれを超えているときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受け取ることができない。」と規定しています。つまり、返す必要はないが、既に相続分以上の贈与を受けているのであるから、それ以上の相続財産は受けられませんよというこ