自筆証書遺言と公正証書遺言(19)

   公正証書のよいところ④ 検認の手続き戸籍を取る②

  現金の代わりに小為替を同封するということだけど、それってどういうものなの?
小為替は、正確には「定額小為替」と言って、金種が50円、100円、150円、200円と、500円まで50円刻みで決められている。500円を超えると、750円と1,000円の2種類に限定される。これを購入するには、金種にかかわらず1枚につき100円の発行料金がかかることになるんだな。例えば50円の小為替は150円を、1,000円の小為替には1,100を支払うことになる。よって、改製原戸籍謄本を1通取得する場合には、750円だから、その金種のものを1枚入れてもよいし、いくつか組み合わせて750円になるようにしてもよい。
また、1,000円の金種を1枚入れてやる場合には、市町村役場でお釣り250円分をやはり小為替で返してくれる。現戸籍謄本や除籍謄本など併せて取り寄せたい場合には何通になるか分からないので、小為替は多少多めの金額になるように入れてやる方がいいね。そうでないと、万一不足が生じると追加料金分を送付しなければならなくなる。必要料金以上に入れてある小為替は戻してくれるので心配はいらないね。小為替の有効期限は6カ月と決められているので、その期間内に郵便局へ持参すると現金に換算してもらえることになるんだな。
  交付申請書、小為替、身分証明書、この他に何か同封するものはあるの?
自分の住所・氏名を書いて切手を貼った返信用封筒を入れなければならない。この場合も戸籍謄本類を複数取り寄せる場合には結構重量が重くなって料金不足になる心配があるので、余分に切手を貼る必要も出てくる。万一不足した場合には郵便局の方も気を利かせて、料金が何円不足していますという付箋を貼って配達してくれることもあるので、その場合には後日不足額を支払うことになるね。これだけのものを同封して発送することになる。
  戸籍謄本一つ取るにも大変なことなんだね。
確かに簡単ではない。遺言の検認には遺言者の生まれてから死亡するまでの戸籍を集める他に、相続人全員の戸籍謄本も提出する必要がある。つまり、戸籍のつながりを見ることによって、誰が相続人であるかが分かるわけなんだが、同時にその相続人が確かに存命しているのかどうかも判定出来るわけなんだな。相続人の数が少数であればさほど問題はないが、複雑なものになるとそうはいかない。何しろ、自分の直系尊属や直系卑属については市町村役場も戸籍謄本類を出してくれるが、傍系の人の戸籍類となると例え兄弟姉妹でも戸籍が別になっていれば本人に取り寄せてもらうか、委任状を持っていかないと出してもらえないから大変なのだ。
   確かに他人の戸籍を取り寄せるのであるから厳格でないと困るよね。しかし、更に複雑な関係になると容易なことではないよね。そういう場合何か良い方法はないの?
相続手続きをするときなど、よく行政書士や弁護士などの専門家に関与してもらうことがある。例えば、遺言書や遺産分割協議書を作成する場合には、相続人を確認するため戸籍謄本類を取り寄せることになるが、これらの士業には職務上の請求書といって、仕事をする上で相続関係者の戸籍を取ることができるという資格が与えられている。これは、利害関係人の依頼に基づいて取り寄せることが出来るというものだが、プライバシー保護のためにとても厳しい条件が付けられているんだな。乱用は決して許されない。しかし、正当に使用する場合にはとても助かるね。
   市町村役場から郵送で戸籍謄本を取り寄せるのにはどのくらいの日数がかかるの?
 その市町村によって異なるが、早ければ発送してから3日程度で返信されることもある。しかし、概ね一週間程度見ておく必要があるね。

 


 解説

     特別受益と寄与文(その5)


  
1.  次のようなご質問を頂きました。
 相続人として兄弟姉妹が4人います。非相続人である父親が生前に、長男の妻に500万円ほど贈与をしてありますが、遺産分割にさいし、それは特別受益として持ち戻しの対象になるのでしょうか。というものです。

  2.  まず、結論から申し上げますと、その贈与に特別の事情がない限り、特別受益には当たらないと見るのが相当でしょう。
 この場合、生計のために長男に贈与したというならば、問題なく特別受益になりますが、その配偶者である妻に贈与したというところにちょっと割り切れない思いが残るわけです。
 夫婦の財産関係について民法762条1項では「夫婦の一方が婚姻前から有した財産、及び婚姻中に自分の名前で得た財産はその特有財産とする。」と規定しています。つまり、夫婦といえども、それぞれ固有の財産については独立したものとなるわけですから、夫の父親から妻が受けた贈与は妻自信の財産であり、夫のものではありません。よって、夫の相続については妻の受贈行為は関係がないことになります。
 更に、民法第903条の規定を見てみると、「共同相続人中に、非相続人から・・・贈与を受けたものがあるとき」特別受益になる
とされています。つまり、共同相続人と限定していることから、この場合の妻は共同相続人ではないので、本条には当てはまらないということにもなります。

  3.  しかし、どうも釈然としない。夫婦の財産は別物とはいえ、ひとつ屋根の下で生計を共にしているということは、夫の父親から妻が贈与を受ければ夫も利益を得ることになるのではないかという考え方も成り立つからです。
つまり、夫にとって直接受益はないにしても、間接受益は否定できませんね。
 この問題について、かつて次のような判断が示されたことがあります。
 福島家裁の審判例ですが、夫婦が分家する際に妻の父親から夫に対し生計の資本として土地(農地)の贈与がなされたというものでした。これに対し裁判所は、夫は共同相続人ではないが、実質的にみてそれが妻に対する贈与と認められる特段の事情があれば、特別受益になると判断しました。


     この夫婦の場合、
      ①実際に農業に従事しているのは妻であること。
      ②贈与は妻が非相続人の農業を手伝ってくれたことに対する謝礼の意味を含んでいるこ

                   と。
      ③父親が贈与した趣旨は妻である娘に利益を与えるためであることが推測できること。
      ④贈与した土地の価格が相続財産の約40%弱にも上ることなどを考慮したとき、残った相

                   続財産をその他の相続人を含めて遺産分割するのは公平でないと判断したわけです。