自筆証書遺言と公正証書遺言(21)

     危急時遺言  ②

 前回は、パパさんが体験した珍しい事例のお話しの途中までだったね。
そうそう、80代の女性がご逝去される直前に作成した「危急時遺言」のお話しの途中までだったね。
それでは、その続きを話してみよう。
遺言者が伏せっているベッドの傍らで、証人二人を交えて聴いたんだな「以前作られた公正証書遺言の一部を変えたいとのことですが、どの部分をどのように変えたいのですか?」とね。
 すると、遺言者は絶え絶えの息の中から言ったんだ。
「この家を純子ちゃんにあげたいんです。」と。
純子ちゃん(仮名)とは、その団体の代表者の3歳になる娘さんのことで、自分が孫のように可愛がっていた子どものことなんだ。その子もよくなついていて、本当のおばあちゃんのように思っていたんだな。
純子ちゃん? な~んだかジュンと同じ名前だね。それから、どうなったの?
危急時遺言を作成するには、それなりの要件が必要なんだ。
民法第976条には次のように書いてある。
「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けたものが、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、押印しなければならない」とね。
ここで「口授」とあるが、「くじゅ」と読むんだな。
  な~んだか難しそうで、よく分からないね。それってどういうことなの?
簡単に言うとこういうことだ。
遺言は本来自分自身で書くか、或いは公証人によって公正証書で作ってもらわなければならない。
しかし、病気やその他の理由で死期が迫っていて、自分で書いたり公正証書で作成をお願いしている時間がない緊急の場合には、特別の方法で作ることが出来るんだな。何しろ、遺言はその人の最終の意思決定であるのだからその思いを実現してあげたいわけだ。
そのためには他人が関与することによって作られた遺言でも、ある一定の条件が、揃っていれば有効とする必要がある。そのために考え出されたのがこの危急時遺言という方法なのさ。
  確かにそういうことだよね。
公証人さんが作成する公正証書遺言だって、国のお役人という身分に基づいて作るのかも知れないけれど、もともとは他人が作るわけだよね。とすれば、民間人が作った場合でも、それが厳格な要件の下に行われたものならば、それはそれで遺言として認めてもよいとジュンも思うね。
おやおや、ジュンもなかなかしっかりした考えがもてるようになったね。確かにそういうことだな。
ただ言えることはこれをあまり広く認めすぎると、場合によっては乱用される危険性もある。
遺言者の意思に基づいて作られるとはいえ、所詮他人が作るわけだから、その人の意思とは違ったものが作られないとも限らない。何しろ、当の本人は死に直面した状態なのだから、その危険性は十分考えられる。
そのために厳格な要件が民法によって規定されているわけさ。そんなことを前提に先ほどの条文を分析してみよう。
病気やその他の理由で死に直面している人が遺言をする場合には、まず証人となる人が3人以上必要である。
では、その証人と言うのは誰でもなれるのかというとそういうわけではないこれについて規定がある。
第974条によると、
 ①未成年者はなれない。 20歳未満の人はだめなんだな。
 ②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族の人たちもだめだ。
推定相続人とは遺言者が死亡したときに相続人になる人のことだ。
受遺者とは、相続人ではないが、遺言者が死亡したときに、遺言によってその人の財産をもらう人のことだな。
こういう人たちが証人になると、不正を働かないとも限らないので排除されているわけだ。
  

 

◆解説

     特別受益と寄与分(その7


  1.  これまで6回にわたって、特別受益について見てまいりました。そこで、今回からは寄与分について解説することにいたします。

 寄与分とは特別受益と同様に、共同相続人間の実質的な公平を図るために設けられた制度です。しかし、両者は対極に位置するもので、特定の相続人が被相続人の生前に、その人のために特別の寄与(プラスになる行為)をした場合、その寄与者に特別の恩典を与えようというものです。
 この制度は昭和55年の民法改正で新たに設けられたものであるため、「第904条の2」として、条文を挿入したような形で規定されているのです。

 2.  それでは、その内容を見てみましょう。
 民法904条の2「共同相続人中に、被相続者の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価値から共同相続人の協議で決めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。」
 いつもながら、法律の条文というのは誠にわかりにくいですね。
そこで1つ1つ分析して見て参りましょう。まず、
  
   ・「共同相続人中に、」とは
        被相続人の相続に当たる人全員を指しています。例えば、夫が亡くなってその遺族が妻と3人

          の子どもであるという場合には、この4人を共同相続人と呼ぶわけです。
  
   ・「被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付」とは、
        例えば、被相続人が事業経営をしていたり、或いは、農業に従事している場合に、特定の相続

         人が、一緒にその仕事を行っているような場合を意味しています。
           財産上の給付とは、特定の相続人が被相続人のためにご自分の所有財産を提供したという

          場合を指します。
          その様な方法で被相続人の事業を更に大きく発展させた場合に、特別の寄与があったというこ

          とになるのです。
 
  ・「被相続人の療養看護」とは、
      病気であるその人のために献身的に看病したり、身の回りの世話をすることを意味しています。
   
   ・「その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるとき」

         とは、
          その他のどのような方法でもよいから、その人の尽力によって被相続人の財産が減少せずに

         済んだとか、或いは、むしろ財産が増えた場合のことを押し並べて意味しています。
         言わば、被相続人のために特別の功労があった者と見れば良いでしょう。