自筆証書遺言と公正証書遺言(23)

     危急時遺言  ④

  前回は危急時遺言のお話しの途中までだったので、続きをお願いしま~す。

  了解です。それでは危急時遺言の作り方から説明することにしようかな。


 ①先ず、最低3人の証人が必要だ。3人以上ならば何人いてもかまわない。
  この場合、次の人は証人になることが出来ないことになっている。
  ・未成年者(満20歳に達していない人)。
  ・推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族。(受遺者とは、

           相人ではないけれども財産をもらう人のこと)。
   ②遺言者は証人の内の一人に遺言の内容を言葉で伝え、その人がそれを書きと

      る。
 ③書き取った内容を遺言者と他の証人に読み聞かせる。または見てもらう。
 ④遺言者と証人全員から書き取った内容に間違いがないことの承認を得る。
 ⑤証人3人が署名する。(署名というのは自分自身で直接氏名を書くこと)
 ⑥証人3人が捺印する。(この印鑑は認め印でよろしい。実印でなくてよい) 

  な~るほど! 一つひとつ見てみるとそれほど難しいことでもないんだな。

 確かにそういう意味から言えば、そういうことも言える。でもね、そう簡単にはいかないのさ。形式的には今話したことを守ればよいことになるが、問題は書き取る内容だ。
遺言者は遺言書を作ることには慣れていない。まして、死に直面しているわけだから細かいことなど表現できないわけだな。だから書き取る側が遺言の趣旨を逸脱しない範囲で補うことが要求される。
例えば、「私の土地と家を、一郎にあげる。」と遺言者が言った場合、書く方がそれをそのまま書き取ったのでは意味内容がはっきりしない。つまり、遺言者は自分が現在住んでいる土地と建物という意思であったとしても、第三者から見ればそんなことはわからない。
ましてや、遺言者が土地と家を他にも所有していた場合には、それらの全部をあげるというのか、それともその中の
どれか一部なのかすらわからない。つまり特定できないということだ。特定できなければ相続させようがない。だから、書き取る人は何処の土地を指しているのかを遺言者に確認し、それが特定できるように書いておかなければならない。
一番いいのは、登記簿謄本に書いてあるように所在、地番、地目、地積を表記しておくことだが、緊急の事態に際してはそんなこと調べている暇はない。よって、県名、市町村名、番地などで特定できるように工夫しておくことが大切だね。また、預貯金についても銀行名、支店名、通帳番号、金額などをはっきりさせておかなければ、いくつか通帳がある場合には特定できないためこれも分けることが出来ない。
更には、細かいようだが、「一郎にあげる。」という部分についても、遺言者は自分の息子の一郎という意図であろうが、これとても同じだ。日本全国に一郎と名のつく人はたくさんいる。厳密に言えば特定できない。だから、何処の一郎かがはっきり分かるように表記しておかなければならない。
一郎さんの住所や生年月日を記入するとか、「遺言者山川太郎の長男山川一郎、昭和○年○月○日生」というように記載しておくようにすればよい。

  う~ん、複雑だね。要するに、人でも物でも、総てが特定できるように書かなければいけないということだね。
そういことだ。遺言者が生きていれば書かれている内容を確認することもできるが、遺言は書いた人が死亡した後に効力を生じるものだ。その時になって記載内容がはっきりしないということでは、どのように扱ってよいのかが分からない。とは言うものの、人の死に直面した状況の中で作成するわけだから、完ぺきなものを作ることなど不可能だ。
だから、そのような場面に遭遇したら、上記の作成要件を基に思い切ってやってみるしかないね。
それがその人の最期の意志に報いることにもなる。

 

解説

           特別受益と寄与分(その9)


  1. 寄与分制度の趣旨及び内容については、これまでの説明でご理解いただけたものと思います。
 そこで今回は、寄与分を受ける相続人とそうでない相続人との間の調整方法はどのようにするのかについて解説することにいたします。
 寄与分算定方式は、①先ず被相続人が相続開始の時に有していた財産(つまり遺産)の価値から、②共同相続人全員の合意で寄与分として認められた金額を差し引いたものを相続財産とみなして、③そのみなし相続財産を法定相続分、或いは遺言による指定相続分に当てはめて計算した金額に、④予め差し引いておいた寄与分を加算した金額をもって特別寄与分のあった人の相続分とするわけです。
    それでは、具体的数字を当てはめて、計算例を示してみましょう。

  2. ある人に相続が発生して、相続財産が6,000万円あり、相続人は妻・長男・次男・長女の4人であったとしましょう。これを法定相続分に従って単純に分割するという場合には、民法第900条によることになります。

   ①6,000万円×2分の1=3,000万円(妻の取得分)
   ②6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円(長男の取得分)

   ③6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円(次男の取得分)
   ④6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円(長女の取得分)


  ところが、長男は父親と同居して家業を献身的に手伝って事業を拡大し、結果として父親の財産を大幅に伸ばしたことにより、1,500万円の寄与分を他の相続人が認めたとしましょう。
この場合には同法第900条と第904条の2により、寄与分を 加味して次のように計算します。

   ①6,000万円ー1,500万円=4,500万円(実際の相続財産6,000万円から寄与分の

    1,500万円を差し引いたもの、これがみなし相続財産になります。)
   ②4,500万円×2分の1=2,250万円  (妻の取得分)
   ③4,500万円×2分の1×3分の1=750万円(次男の取得分)
   ④4,500万円×2分の1×3分の1=750万円(長女の取得分)
   ⑤4,500万円×2分の1×3分の1+1,500万円=2,250万円(長男の取得分。つまり法定相

          続分50万円に1,500万円の寄与分を加算することによって算出した合計金額になるわけで

          す。)