自筆証書遺言と公正証書遺言(24)

    遺言の方式

  パパさん、このお話も24回、つまり2年も続いたことになるんだね。
   そう、早いものだね~。 それでは、もう少し遺言の話を続けてみようかな。
 実は、平成11年に民法の一部が改正されて、口がきけなかったり、耳が聞こえなかったりする、言語や聴覚に機能障害を持った人が公正証書遺言を作る場合の方法が明確に規定されたんだ。これまでこのような定めがなかったことから問題になっていたね。
民法第969条の2によると、口がきけない者が、公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で遺言の趣旨を通訳人の通訳により、申述し、または自書して、口授(くじゅ)にかえなければならない。つまり、手話通訳者を介して自分の意思を伝えられれば良いわけだ。
 また、耳が聞こえない者の場合には公証人が筆記した内容を通訳人によって遺言者に伝えれば良いとしている。
これと同じことが危急時遺言の中にも盛り込まれてたね。第976条2項と3項にそのことが書いてある。口がきけなくても、耳が聞こえなくても通訳人がいれば、今わの際にでも遺言を作ることが出来るというわけだ。 次に、その他の遺言の方式について、もう少し細かく触れてみようかな。
  その他の遺言の方式って、どういうことなの?
   遺言の方式には、大きく分けて普通方式と特別方式の二つがある。これまでお話ししてきた自筆証書遺言と公正証書遺言は普通方式による遺言の代表格だが、もう一つ秘密証書遺言というものがあるのだな。一方、特別方式に属するものとしては、前回説明した危急時遺言のほかに、隔絶地遺言というのがある。この二つを更に分類すると、前社(危急時遺言)の中には一般危急時遺言と難船危急時遺言があり、後者(隔絶地遺言)には伝染病隔離遺言と在船者遺言とがある。
   うわッ~! 何が何だかこんがらがりそうだよ~。 もう少し分かりやすく説明してください。
  そうかそうか。それでは図にしてみよう。

 

 

これでスッキリしたね。しかし、ずいぶん沢山あるものなんだね~。

   そういうことだ。それでは、次回にその内容についてお話することにしよう。

 

◆解説

     特別受益と寄与分(その10)

 

1. 次のようなご相談をいただきました。但し、この方は月刊ボランティアの読者ではなく、私が担当している公的機関の相談会で寄せられたものです。
 これはよくある例で、本誌購読者の中にもこれと同じようなお立場にある方もおられるかと思いますので、ここで取り上げてみることにしました


 
 
2. ご相談の内容は、概ね次の通りです。
 私の夫は長男で、父母と同居しています。義父は病のために寝たきりの生活ですが、頭はしっかりしています。義母は認知症で徘徊をくりかえし、その世話に明け暮れましたが、今は他界しました。夫はサラリーマンで、家にいるときには一緒に手伝ってくれますが、仕事に行っている間は自分一人で世話をしなければならず、自由時間など持てません。
私はOLでしたが、看護のためにお勤めをやめざるを得ませんでした。夫には弟妹がおりますが、たまに見舞いに来るだけで、看護に関わるということは全くありません。
 このような状況のなかで相続が発生した場合、嫁の立場で療養看護に努めたことにより、寄与分の請求ができるでしょうか。というものです。

  3. 先ず、結論から申し上げましょう。
この場合、誠に残念ながら、このご相談者には寄与分の請求権は認められません。それはなぜでしょうか?
 これまでも見てきましたように、寄与分制度は共同相続人間の遺産の分配を公平に行いましょうという趣旨に基づいて制度化されたもので、相続人でない嫁の立場にある方がここに入り込む余地はないのです。(ちなみに、この場合の法定相続人は夫と弟妹の3人になります。嫁は相続人にはなれません。)
 では、献身的に療養看護に努めたその人の立場はどうなるのかという疑問が残ります。夫の弟妹は全く療養看護に務めないのに法定相続分3分の1は主張できる、それに引き換え、身を粉にして尽力した嫁の立場が報われない。
 誠にごもっともな話で、心情的にはよく理解できるのですが、それを法律に基づいて解決するとなると、そうはいかなくなってしまうのです。
 もっとも、学者の中には、寄与分は相続人に限定せずに、誰でも認めてしかるべきであるという主張もないわけではありません。読者の中にも、「これはおかしい」とお考えになられる方も少なくないでしょう。
 確かにそうなのですが、しかし、それは立法論の問題であって、今後このような課題がクローズアップされて、社会的認知度が高まれば法律改正ということに繋がらないとも限りません。しかし現状では如何ともしがたいわけです。

  4. では、このような嫁の立場を保護するためにはどうしたらよいので

しょうか。 次回からその辺りを見て参りましょう。