自筆証書遺言と公正証書遺言(25)

    特別方式  ①

  パパさん、今日は前回に続いて遺言の方式の説明からでしょう。
   そうだね。前回は遺言の方式を分かりやすいように図で示して見たわけだが、今回からそれぞれの内容についてのお話をしてみることにしよう。
 先ず、普通方式の中で自筆証書遺言と公正証書遺言については、これまで詳しく説明してきたので省くとして、秘密証書遺言から話を進めてみようかな。
 この遺言書は「秘密」という文字からも分かるように、遺言の内容を誰にも知られないようにして作るというところに特徴があるんだな。
   エッ!? 遺言というのは、どういう種類のものでも他人にはしられないようにして作っておくものではないの?
   一般的には、そのように考えられがちだね。しかし、そんなことはない。公正証書遺言の場合を見てもわかる通り、公証人さんが作り、その内容を遺言者と証人二人の前で読み聞かせることから秘密と言うことはないわけだ。
自筆証書遺言にしても、封筒などに入れて糊付けしておくことがあるかもしれないが、特に封入しておかなければいけないというものではない。つまり、書いたままオープンにしておいても一向に構わないのさ。
ただ、偽造や変造を防いだり、他の人に見られたくない場合には、封筒に入れて封印しておけば安心できることは確かだね。しかし、そうしなければ遺言書が無効になってしまうということではないんだな。
  な~るほど。遺言とはそういうものなのか~。 
 

 その点秘密証書遺言となるとちょっと違う。民法によると次の通りだ(970条)。
 
 ①遺言者がその証書(つまり遺言書)に署名し、印を押すこと。
 ②遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章(印鑑)でこれに封印すること。
 ③遺言者が公証人1人及び証人2名以上の前に封書を提出して、それが自分の遺

       言書である旨ならびにそれを書いた人の氏名及び住所を申述すること。
 ④公証人がその証書の提出された日付や遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言

       者と証人とが共にこれに署名し印を押すこと。

 秘密証書遺言には、いくつかの特徴が見られるね。先ず、遺言書は必ずしも自分で書く必要はなく、他人が代筆してもよいということだ。 ③を見ればわかる。無論自分で書いても良い。しかも自筆でなく、ワープロでもタイプライターでもかまわない。
この点自筆証書遺言とは大きな違いがあるわけだね。ただ、④にあるように、遺言者は自署しなければならないから、自分で氏名が書けない場合には、秘密証書遺言を作ることはできない。
公正証書遺言のように公証人が代理するわけにはいかないんだな。また、自筆証書遺言の場合には、遺言者が日付を書くことは必須条件だが、秘密証書遺言の場合には、遺言者は日付を書いても書かなくてもよい。提出を受けた公証人がそれを記載することになっているからだ。
秘密証書遺言の加除訂正の方式については、自筆証書遺言と同じ方法によることになっている。つまり、遺言者が訂正箇所を指示し、変更したことを付記し、これに署名し、変更の場所に押印する。
 以上のような方式をとることによって、誰にも知られないで遺言を作ることが可能となる。もっとも、他人に頼んで代筆してもらう場合には、その人は知っていることになるけれどね。それと、秘密証書遺言として作成した遺言書が様式不備で効力が生じない場合でも、それが自筆証書遺言の様式を満たしている場合には、自筆証書遺言として有効になると定められている(971条)。
この場合、他人が書いたものやワープロで作成したもの、日付の無いものはそれだけでダメということになるね。

   とても便利なようだけど、この方法で作る人って多くいるの?

 

◆解説

     特別受益と寄与分(その11)


 1. 夫の妻として義父母を献身的に介護したにもかかわらず、寄与分請求権の無い長男の嫁の立場はいかにも気の毒です。それが報われるためにはどうしたら良いのか。今回からはその方法について考えてみることにしました。

 2.解決策 その1
  お義父さまに遺言書を作成しておいてもらいましょう。お義父さまは寝たきりのようですが、意思能力(判断能力)はしっかりしていらっしゃるとのことですので、遺言書を作成することは全く問題ありません。自筆証書遺言を作ることが出来ない場合には、公正証書遺言にすればよいのです。本人が全く字が書けない状態でもかまいません。ご自分の財産をどのように相続させたいのかを口頭で言い表わせれば、それに基づき公証人さんが作ってくれます。署名すらご自分でできなくてもかまいません。
その場合には、自分で書けない理由を公証人さんが代理記入をしてくれます。また、寝たきりで公証役場まで行くことも不可能と言う場合には、公証人さんが遺言者の居住地まで出張して作成してくれます。
 公正証書遺言には2人の立会人が必要ですが、ご自分で依頼出来ないばあいには公証役場の方で探してくれます。
 遺言書の文面については次のように記載しておけばよいでしょう。
 「株式会社○○銀行○○支店の預貯金債権の中から金5百万円を遺言者の長男山川一郎の妻山川秋子(昭和○年○月○日生)に遺贈する。」
それとともに、付言の中でその理由を書いておけばなお良いですね。これも例示してみましょう。
「長男一郎の妻秋子は、先年他界した私の妻夏子が認知症で徘徊を繰り返した折にもいやな顔一つ見せず献身的に介助し、また、私が病床に臥せってからも誠心誠意看護療養に努めてくれました。
これは、実の娘でもなかなか出来ないことであり本当にありがたいことであると思っています。よって、ここに感謝の意を込めて、私の遺産のなかから金五百万円を遺贈することにしました。相続人である一郎、二郎、松子、梅子にはどうか私の心情を理解して、決して相続争いなどおこさないようにしてほしいというのが父のたっての願いです。云々」としておけばよいでしょう。
遺言書を作る場合、この「付言」を記すことはとても大切なことです。上記の例でも、単に長男の嫁に金五百万円を遺贈するとしか書いてない場合と、なぜ五百万円を遺贈したのかという理由までも書いてあるのとでは、相続人の受ける心情が違うわけです。こんな例もありました。5人の兄弟姉妹が一堂に会して父の残した遺言書の遺産配分割合を巡って重い空気が漂っていたとき、付言を読んだ二男の方が自分の取得分が少ないのにもかかわらず、「お父さんがそういう気持ちで分けたのならそれに従おうではないか」と提案したのを機に皆の納得が得られたというものでした。人はお互いに気持ちを伝え合うことが大切であると言えましょう。