自筆証書遺言と公正証書遺言(27)

    特別方式  ③とまとめ①

  パパさん、今日は隔絶地遺言についてのお話からだったね。
   そう。伝染病隔離者の遺言と在船者の遺言がそれに当たる。民法には次のように書かれている。
「伝染病のため行政処分によって交通を絶たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人 「船舶中に」在る者は、船長又は事務員一人及び承認二人以上の立会をもって遺言書を作ることができる。(978条)。これを見ても分かるように、両方とも一般社会から閉ざされた状況下にあることから、このような特別の方式が取られて以上の立会いをもって遺言書を作ることが出来る。」(977条)。
 
  こういう方式で遺言書を作る人って実際にいるの?
  制度としてはあるものの、現実的にはこのような方法で遺言書を作る人はほとんどいないと言っていいね。きわめて特殊な場合だな。一応このような規定があることから関連事項を付け加えておくと、両方の遺言については、遺言者、筆者、立会人、及び証人はそれぞれが遺言書に署名し、印を押すことになっている。
もしその中に署名をしたり、印を押すことが出来ない者があるときには、立会人または証人はその理由を記しておかなければならない。これについては、前回お話した危急時遺言と同じだね。
なお、隔絶地遺言は危急時遺言と同じく、遺言者の生存による特別方式遺言の失効の規定により、遺言者が普通方式で遺言をすることができるようになったときから6か月間生存する時にはその効力が発生しないことになっている。(第983条)
  確かに船に乗っている人はいつかは港に着くわけだから、緊急事態でも起こらない限り敢えてそこで遺言をつくる必要はないわけだし、伝染病隔離者にしても同じようなことが言えるわけだね。
  まあ、そういうことだ。 さて、これで遺言についての方式・内容・効果等一通りお話をしたことになる。
平成20年11月から2年以上に及んだわけだな。そこで、次のお話に入る前に、途中から見られた方もおられるでしょうから、大切なところだけをもう一度、おさらいをしてみることにしようかな。今度はジュンに説明をお願いしよう。
これまで一生懸命勉強をしてきたから相当の知識が身に着いたと思うので。
  エッ! ジュンが説明するの? う~ん、分からないところは助けてね。
  了解です。それでは、一問一答形式でやってみよう。まず、遺言はなぜ必要なのかというところから初めてみようかな。
  よく「遺言を作るなんて縁起でもない。」という人がいるけれど、そんなことはありません。
遺言は自分の財産を誰にどのように引き継ぐのかを決めておくことですから、遺書とは違うのです。
遺書は書きたくありませんが、遺言を作る人はいまとても増えています。
遺言を作ることは円満で速やかな相続手続きを可能にするのです。
  そういうことだね。次に「我が家は財産がないので遺言など作る必要はない。」と言う人がいますが、これについてはどうですか。
  「うちは財産がない。」と言っても土地や家屋、或いはマンションなど持っていたとすれば、これらはみんな相続財産として相続人全員で分けることになります。しかし、土地や家屋は分けられません。例えば、30坪の土地を相続人3人で等しく分けると一人が10坪になります。しかし、10坪の土地では何の利用価値もありません。更に、家屋やマンションは売り払うか解体しなければ分けられません。だから、遺言で相続人を指定しておかなければ困ることになるのです。
   オー! ジュンはなかなかいい線を行ってるね。次回もこの調子で続けてみよう。

 

◆解説

    
 特別受益と寄与分(その13)

 1.前回は、息子の嫁として義父母の世話をしても、そのままでは相続権がありませんので遺産を分けてもらえず、そのための方策としては義父母に遺言で遺贈をしておいてもらう必要があるとのお話をしました。
そこで、今回はその方策の二つ目として、義父母と嫁が養子縁組をするという方法について考えてみることにしました。
養子と言う言葉は今日では一般社会で広く使われていますので、ほとんどの方はお分かりになられていると思います。つまり、義父母と嫁とが養親子関係をもつという契約をするわけです。これによって嫁は義父母の実子と同じ扱いになりますから相続権を取得することが出来ることになります。
「養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する」(民法第809条)。また、そればかりではなく、場合によっては他の相続人とのお話合いにより寄与分を認めてもらえることにもなるのです。(第904条の2)
 
 2.ここで養子制度について少し触れてみましょう。
 養子とは本来血縁関係のない者同士が縁組によって血縁関係があるのと同じような状況を作り出すという擬制に基づく制度です。歴史的にはかなり古い時代から行われていたことが文献には書かれています(例えば、ローマ時代にはすでに制度化されていました)。その目的は血統の継続、労働の補給、親の扶養、家業の承継など、子をもたない親が自分の都合や利益のために行うというのが一般的でした。
いうなれば養子制度は子のための養子というよりは家のため、親のためのものであるという色合いがとても強かったわけです。しかし時代を経るに従ってこの考え方は否定され、子の福祉のための養子制度に変わってきました。日本でも戦後の新憲法制度とともに「家」制度の存続を目的とするような養子縁組は廃止され、近代養子法の仲間入りを果たすように民法も改定されたわけです。しかし、その規定を見てみますと必ずしもそのようになっておらず、実際に行われている養子縁組についても、未成年者よりも成年者を養子に迎えるというのがほとんどです。
また、未成年者養子でも、他人を養子に迎えるよりも親族を養子にするというものが圧倒的に多いというのも実情です。
例えば、第793条には、養子は養親より年長であってはならないことが規定されています。しかし、これは裏を返せば養子は養親より1歳でも年下であればよく、また養子と養親が同じ年齢でもかまわないということになります。なぜならば、同年齢は年長ではないからです。
こうしてみますと、今の民法は明らかに子のための養子法とはかけ離れたものであることがはっきりしています。

 3.この論理から言うと、上記1の義父母が自分の老後の世話をしてもらうために息子の嫁を養子にするというのは、明らかに立法の趣旨に反することにもなります。
これをどう見るかですが、確かに趣旨としてはそういうことが言えるわけですが、それは立法の問題で、今後より近代養子法に近づく民法改正がなされればそのようなことは許されなくなるかもしれません。ただ、現行法においては養子縁組の要件が規定されており、それに該当すれば養子縁組が許されることになるのです。
 では、養子縁組をするにはどのような要件が必要になるのか。次回はそのことについて見ていくことにします。