自筆証書遺言と公正証書遺言(28)

    まとめ  ②

  遺言書を作って土地や預貯金を相続人に分けてしまうと、自分の住むところが無くなったり、旅行や病院に行くお金も無くなってしまうので、遺言書なんて作りたくないという人がいますがこれについてはどうですか?
   遺言で土地や預貯金を相続人に相続させると書いても、今すぐにあげたわけではありません。生前にあげてしまう贈与とは違うのです。遺言の効力発生の時期は遺言者の死亡の時ですから、それまでは遺言者の所有物です。だから自由に使って構いません。その結果、土地を売ってしまっても、預貯金が0円になってもかまわないのです。
  そういうことだね。では、遺言を作っておくとどのような良いことがあるのですか? と言う質問についてはどうかな。
 

う~ん! これについては沢山あるけど、代表的なものは、①相続争いが防止出来ることと、②相続手続きがスムースに進むということですね。相続争いはよく世間で聴く話しです。なぜ争いになるかと言うと、遺言が無い場合、遺産は相続人全員で話し合いをして分けなければならないからです。これを「遺産分割協議」と言いますが、この遺産分割協議がなかなかうまく進まずしばしば紛争になってしまうのです
 NHKテレビ「クローズアップ現代」が以前報じたところによりますと、家庭裁判所に持ち込まれる相談件数が11万件を越えたとのことです。これを1365124時間で単純に計算してみますと、約4分に1件と言う驚くべき数に上ります

 ところが、親が遺言を作って財産の配分を決めておくと、子ども同士で遺産分割の話し合いをしなくて済むので、争いを防ぐことができるのです。   遺言は相続手続きをスムースに進めることができるというのは、その遺言書に書いてある通りに手続きを進めれば良いのですから簡単です。遺言がなければ、①その人の相続財産がどれほどあるのか、②相続人は誰なのかという調査から始めなければなりません。
自分の財産ですらどれだけあるのかなど正確に分かっている人は少ないわけですから、ましてや、夫婦、親子の間でも人の財産の細かいところまで分かる人などそういるものではありません。

      また
 相続はプラスの財産ばかりでなくマイナスの財産(借金)なども引き継ぎます。プラスの財産よりも借金などマイナスの方が多い場合には、そのまま相続してしまうと大変なことになりますので、相続放棄や限定承認を裁判所に申し立てなければなりません。

しかもそれができる期間は3カ月以内とされています。葬儀も終わり、初七日や四十九日の法要を済ませ、大切な人を失った悲しみの中に明け暮れている間に時間はどんどん過ぎて行き、3カ月などあっという間に経ってしまいます。
また、相続税を納めるほどの財産を持っている場合には税務申告をしなければなりません。
この調査が大変なのです。

その人の財産を細大漏らさず洗いざらい探し出して税務申告書を作るという煩わしい手続きを踏まなければなりません。
人の財産を探し出すという作業は簡単ではなく、しかもその期間は
10カ月と決められております。
その期間内に申告をしなければ配偶者控除や小規模宅地の減額など様々な恩典を活用できないばかりか、もし申告漏れの財産があれば税務署からペナルティ(追徴金や重加算税など)が科されることになるのです。

オー、 ジュンもなかなかのものだね~! では、「遺産は法律どおりに分ければ良いので、遺言なんか必要ない。」という人もいますがこれについてはどうですか?
  法律どおりに分けると言ってもそう簡単にはいきません。例えば兄弟3人が相続人の場合、法律によると一人に付3分の1の権利があることになります。先月号でも取り上げた例で、30坪の土地を3人で分けたら一人10坪になります。
この広さでは何の利用価値もなくなってしまいます。更に、家は分けることができません。どうしても分けるとなれば、売り払ってその代金を分けることになってしまうのです。

 

◆解説

 

     特別受益と寄与分(その14

 

1、今回は養子縁組をするにはどのような要件が必要なのかについて見ていくことにしましょう。

(1)養子縁組は養親になる者と養子になる者との間の契約行為で成立します。

    ですから縁組の意思が欠けていると無効になってしまいます。
    養子となる者が未成年者であっても
15歳に達していれば自分で行うこと
ができま

    す。
    それ以下の年齢の場合には代諾縁組といって法定代理人(父母など)が
本人に代

    わって承諾をすることになるのです(民法第797条)。
    なお、未成年者を養子にする場合には家庭裁判所の許可を得なければな
りません。
    その縁組が養親のための者でなく、本当に未成年者の利益になるかどう
かをチェッ

    クするためです。

(2)養子縁組は戸籍法の規定に基づいて市町村役場へ届け出ることが必要です。
    この方法については婚姻の届け出の規定(第
739条)が準用されてい
ため、読者の皆

    様の中でもご自分で結婚届けを出されたことのある方はそのやり方についてご存知

    のことと思います。
    つまり、本人の本籍地または届け出人の所在地のいずれかで行います。
    届け出は書面による方法と口頭による方法とがあり、書面による届け出
は当事者双

    方と成年の証人二人以上が必要事項を記載した書類(普通は

    市町村役場に備えてある用紙を使います)に署名捺印して提出します(戸籍33

    条)。
    口頭による届け出は本人が成年の証人二人以上と一緒に役場に出向い
て、届出書に

    記載すべき事項を申し述べて、市町村長(実際には市町村役場の担当職員)がその

    内容を筆記し、年月日を記載してそれを届け人に読み聞かせ、間違いがないことを

    確認したら届け人はその書面に署名捺印をします(戸籍法37条)。
    また、届け出の当事者及び証人が印を持っていない場合には署名だけで
も良く、ま

    た、署名できず、印を持ってないときは、氏名を代書させ拇印だけでも良いとさ

    れています。
    その場合には書面にその理由を記載しておくことになります。

(3)縁組をする場合、養親となる者は成年者でなければなりません。
    養子になる者は特に年齢制限はありません。成年者を養子にすることも
可能です。
    ただ、養子になる者は養親になるものより年長者であることは認められ
ません。
    年長者でなければ良いわけですから
1歳でも下なら良く、更には同じ年齢
でもかまわ

    ないという論法になります。こうなりますと、現行の縁組制度は養子のためのもの

    ではなく、養親のためにあるようにも思われす。 

    相続税対策のために養子を迎え法定相続人の数を増やして控除額を増額させようと

    するなどは本来のあるべき養子のための制度からはかけ離れ

    たものと言わざるを得ません。    

            次に、尊属を養子にすることも禁じられております。
    尊属であれば年齢を問わず、また直系でも傍系でも自分より世代が上で
あることで

    養子に迎えることはできないわけです。これについても同じ世代ならば可能という

    ことになるわけですから、ここでも本当に子のための養子法であるのかという疑問

    は拭い去れません。
   反面、自分の直系卑属を養子にすることは禁止されておりません。嫡出でない子や

    孫を養子にすることは良くある例です。


  「尊属」「卑俗」、「直系」、「傍系」の説明は自筆証書遺言と公正証書遺言(4)の解説の2(1)(2)に載っています