自筆証書遺言と公正証書遺言(29)

    まとめ  ③

   では、前回に続いておさらいをしてみようかな。
例えば「うちの子はみんないい子なので、親の財産など欲しがる者はいない。」、「よく言い聞かせてあるので財産争いなどはしない。」、「子供たちは皆安定した生活を送っているので親の財産などあてにする者はいない。」と言う人がいますが、これについてはどうですか?
  このように言う人は確かに多いです。
親であれば誰しも自分の子を信頼したいという気持ちが先に立つためか、子どもの間で相続争いなど起きるわけがないと思われている方が多いわけです。
しかし、現実問題として相続紛争はかなりの数で起きているという事実、そして、特別の財産家ではなく、ごくごく一般の庶民の間でもそのようなことで苦しんでいる人が多いという事実を見ると、あながちわが子に限ってということは言えないのではないでしょうか。
「うちの子はみんないい子・・・・」、「よく言い聞かせてあるので・・・・」、「子供たちは皆安定した生活を送っているから・・・・」だから親の財産など欲しがらない。
親であれば誰しもそのように願い信じたいものです。
しかし、それは親が思っているだけのことで必ずそうなるとは限りません。
例えば、結婚して配偶者が出来た場合、自分は親の遺産はいらないと思っても、配偶者の立場からするとそうでないこともあります。
全くその意向を無視するわけにはいかないでしょう。
また、子供が学齢期に達すればより高い教育を受けさせるための学費やお稽古ごとの費用など必要経費は年々上昇するばかり、マンションを購入した場合にはローンを抱えていたり、その経済状況が常に安定しているとは限りません。
今は何不自由なく暮らしていても、ある日一家の大黒柱が病気で入院することにならないとも限りませんし、悪化して寝たきりになってしまうこともあるでしょう。
交通事故で配偶者が他界する場合だってないとは限りません。
人間の生活はいつどこでどう変化するか予想できる人は誰ひとりとしていないのです。
そういう場合、お金は羽が生えたように飛んで行ってしまいます。
そういう時に相続財産が入ってくるという状況が起きた場合に、親の遺産は全部兄弟姉妹に譲ってやって「自分はいらない」と本当に言えるでしょうか。
「もらえるものなら貰いたい。」という気持ちは、欲が深いとか深くないとかの問題ではなく、人間のごくごく自然な性質ではないでしょうか。
現実に社会で起きていることと親が思っていることとの間には大きな隔たりがあるのです。
  そういうことだね。世間一般の方は、そんなに相続争いが現実に有ることなど知らない方の方が多いと思うが、これについてはどうですか。
  う~ん! いま、本屋さんに行けば相続にまつわる本はいろいろ出版されていますが、どの本を見てもほとんど例外なく相続はもめることを前提に準備をしておくようにと書かれています。
どんなに仲がいい兄弟姉妹でも相続が発生すると大なり小なり諍いが起こるというのが現実であるとも書かれているね。
場合によっては裁判沙汰になるというケースも珍しくありません。
そうなりますと大変です。
裁判は公開の法廷で行われますので、誰でも、何時でも自由に入廷して見学することができるのです。
知人が傍聴していないとも限りません。
そういうところで血を分けた親子が、血を分けた兄弟が、ののしり合い、せめぎ合い、いわば相手の傷口に塩を塗り込むようなことを行うわけですから、勝っても負けても気持ちの良いものではなく、親子兄弟の仲は完全に断絶してしまいます。
肉親の争いは他人以上に大変だと言われますが、確かにその通りなのです。
そうならないためにはどうしたら良いのか。
それは、これまでにも再三触れて来たように、親が遺言書を作って土地や家屋、預貯金、株式などの財産をどのように相続させるかを決めておくことが大切なのです。
それをしておかないで、「相続は誰かがやってくれるだろう」な~んてタカをくくっていると、大変な事態が待ち受けているということになるのです。
早く気付いた人は安心ですね。

 

◆解説

     特別受益と寄与分(その15) ≪養子縁組≫

 1、養子縁組をすることによって養子はその日から養親の嫡出子としての身分を取得

 します(第809条)。嫡出子とは法律上正式に夫婦となった者(市町村役場に婚姻届を

 出してある者)の間に生まれた子どものことです。
 つまり、養子縁組をすることによって実子と同じ身分になるわけです。これにより養子

 は養親の第一順位の相続人になりますので、寄与分の請求権が与えられるわけです。嫡

 出子になることによって他にどのような権利義務関係が生じるかと言いますと、
  ①養子が未成年者であればそれまでは実親が親権者であったものが、以後は親権が養

   親に移ります(第818条)。
  ②養親と養子との間にはお互いに扶養の関係が発生します。また、
  ③養親及びその血族と養子との間には、縁組の日から血族間におけると同一の親族関

   係が生じます(727条)。
 これを法定血族と言います。つまり本来血の繋がりが無いところに法によって擬制的に

 それを作り出すことからそう呼ばれるわけです。よって、養親の直系血族・傍系血族・

 姻族と養子とは親族関係を持つことになりますが、養親の血族と実親の血族との間には

 法定血族関係は発生しません。
 このことから、もし養子となる者にその縁組をする前に生まれた子供がいた場合には、

 その子はいわゆる連れ子であって、養親との間に法定血族関係は発生しないことから、

 養子が養親より先に死亡した場合には代襲相続が発生しないことになります。
 

2、特別養子縁組
 これまで見てきたのはいわゆる普通養子ですが、これに対して特別養子制度がありす。
これは民法の一部改正により昭和
6311日から施行された比較的新しい制度です。
それまでは、必要性は認められていたものの、このような規定はありませんでした。

戦後の民法改正で「家制度」にまつわる家督相続の条文は廃止されましたが、養子のための養子法という趣旨からは遠く離れたものでありました。現実的にも成年養子や夫婦養子が認められ、しかも未成年者を養子にするよりも成年養子の方が圧倒的に多いという本末転倒の結果になっていることを見てもそのことが分かります。

 このような状況下で新設された特別養子制度は、①様々な事情で子どもを育てることができなかったり、②そのまま両親に育てさせることが不適当であったりした場合に、養親によって実子と同じように養育することがその子の利益につながるならばそのようにした方が良いという趣旨で作られたものです。言わば、養子のための養子制度が実現したことになるわけです。

特別養子縁組をするには、次の要件が必要です。
1)養親になる者は配偶者のあるものでなければなりません。つまり夫婦が共同で養親になることが必要です。但し、夫婦の一方が他方の嫡出子を養子にする場合には個別の縁組が認められます。(第817条の3)。
2)養親となるものは25歳以上の年齢であることが必要です。これは親としてしっかり子育てが出来るという監護能力を考慮したものであります。無論25歳未満でも看護能力が備わっている方もいないわけではありませんが、制度上その年齢で線引きをしたわけです。但し、養親の一方配偶者が25歳に達していれば他方配偶者は必ずしも25歳以上でなくても20歳に達していれば可能です。(817条の4


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