自筆証書遺言と公正証書遺言(4)

    相続財産を調べる

  パパさん、今日はどんなお話をしてくれるの?
 そうだねー。それでは、実際に「自筆証書遺言」を作る場合、どのようにしたらいいのかについて話してみようかな。
  お願いしま~す。なるべく分かりやすく話してね。
まず注意すべき点は、遺言は自分が思っていることを何でもかんでも書けば良いというものではないんだな。
法により実現可能な内容を明確に表現しなければいけない。まあ、細かいことは追い追い触れるとして、ここでは自分の財産を滞りなく相続させるにはどのようにしたらよいかを中心に説明してみることにしよう。
  それがいいね。読者の皆さんもその辺を一番知りたいと思うから。
  さて、そこでだ、まず最初にやるべきことは、自分の財産はどのようなものがあるかを調べてみること、そして相続人は誰かを確定することだね。財産としては、土地、建物、預貯金、有価証券、貴金属、書画骨董、このほかにもあると思うが、とにかく資産的価値のあるものは思いつくままに書きだしてみるといい。頭の中で考えているだけでなく、紙でもパソコンでもよいから、まず財産の一覧表を作ってみることさ。
確かに頭の中で考えていただけではなかなかまとまらないものね。落ちも出るし。
  そういうこと。次に、それらの資産がどれほどの価値があるのかを調べてみる。
その調べ方だが、土地と家屋については、「固定資産税納税通知書」に評価額が書いてあるからそれを見ればわかる。この通知書は毎年5月ごろ市町村役場から送られてくるね。無ければ市町村役場の税務課へ行って「固定資産評価証明書」を取り寄せてもいい。
土地や家屋をあちこちに所有していてその所在が定かでない場合には、税務課で「名寄帳」(なよせちょう)を請求すればいい。その市町村内にある所有物件総てが一覧表示されているのでとても便利だね。
また、土地の評価額を国税庁の「路線価」で調べるならば自宅のパソコンからでも可能だ。
まず、インターネットで「路線価」と打ち込むと「国税庁ホームページ」が表示される。
それをクリックすると「路線価図」というのが表示されるので、そこをクリックして自分が調べたい都道府県市町村、そして目的の場所を表示すればいい。
そうすると、地図上の道路に例えば「300D」というような表示が出ている。これはその道路に面している土地1平方メートル当たり300,000円ということを意味しているのさ。「200C」とあれば200,000円だ。
これに奥行価格補正率と自分の所有地の面積を掛ければその価額がわかるというわけ。
図の見方や計算方法も説明が付いているので大丈夫。なお、「D」や「C」は借地権割合を示している。
つまりその土地を貸借している場合には土地の価額の「D」は60%、「C」は70%の価値があるということなんだよ。だから、借地だって立派な相続財産になるわけだな。
  な~んだか難しそうだけど、説明書きが付いていれば安心できるね。
  そのとおり。しかし、どうしてもややっこしくって分かりにくいという場合には、近くの税務署へ行って説明を受ければいい。とても親切に教えてもらえるよ。
次に預貯金だが、これは通帳の残高を見れば分かるね。投資信託や株式などはその時々で変動するが、現在額を知りたければ信託銀行や証券会社で教えてもらえばいい。
問題は貴金属や書画骨董類だ。相当の値打ちもので時価を知りたければ専門の鑑定家に依頼することになる。
もっともこれ等はどこのご家庭でもあるというしろ物ではないがね。
この他にもテレビや冷蔵庫などの家財道具類があるわけだが、これらは十把ひとからげとみて、家屋を相続する人に付随させるというのが一般的だね。さて、これで自分の財産がどれほどになるかが分った。
次は相続人は誰かを確定する作業だ。

解説

1. 日本の相続制度は血族相続を中心に据え、それに配偶者相続が加味されて構成されていま  す。 血族とは血のつながりであり、子から孫へ、更にその子孫へと縦の系列をたどるのが原則です。 しかし子や孫がいない場合には親、祖父母、曾祖父母と逆に上の方へ遡っていきます。 それらもいない場合には、兄弟姉妹と横の関係が発生します。
兄弟姉妹が亡くなっていて甥姪がいる場合には、そこまでは相続が認められていますが、それより先、つまり甥姪の子供たちには相続権がありません。この段階まで行くと血縁関係もかなり薄くなってきますのでそのように決められたのです。
現実的に見ても納得できるでしょう。会ったことも顔を見たこともない遠い血縁の人が遺産相続できるというのはちょっと理にあいませんね。こういう立場の方を「笑う相続人」と呼んでいます。
つまり、全く知らない遠い縁者が亡くなっても、悲しくも何でもない。気がついたら高額の遺産が転がり込んできたなどという場合、ついニンマリと笑ってしまうということから出て来た言葉です。そういう立場の人まで相続人として法で保護する必要はないとしたわけです。

2. 先日、ある方からこんな言葉を耳にしました。「相続のことを勉強しようと思って図書館から本を借りてきて読んでみたけど、どうもよく  分からない」と。これは、内容についての難しさもありましょうが、そこに書かれている用語について理解できないために先に読み進む  意欲を削がれてしまうことによるということもあるわけです。
  そこで基本的な用語について少し説明を加えておきましょう。

 (1)まず「血族」ですが、自分を中心に父母・祖父母・曾祖父母と祖先の方へつながる関係と、子・孫・曾孫と子孫へつながる関係とがあります。この一連のつながりを「直系血族」(ちょっけい

つぞく)と言います。
 上下にまっすぐつながっているのでこう呼んでいるのです。
 更に、父母・祖父母・曾祖父母と自分よりも祖先へ繋がる方々を「尊続」(そんぞく)と言い、子・

孫・曾孫と子孫の方へ繋がる方々を「卑属」(ひぞく)と呼んでいます。これは特に尊いとか卑しいという意味ではなく、
   世代が自分より前か後かを読み分けるために便宜上このように呼んでいるだけです。

 (2)これに対し横の繋がりである兄弟姉妹・従兄弟・伯叔父母や甥姪などを「傍系血族」(ぼうけいけつぞく)と言います。伯叔父母・伯叔祖父母など自分より前の世代の方々を尊属、甥姪など自

分より後の世代の方々を卑属という呼び方は直系の場合と同じです。なお、兄弟姉妹・従兄弟は自分と同じ世代ですので存続でも卑俗でもありません。

 (3)次に良く出てくる言葉に、「配偶者」(はいぐうしゃ)があります。
 今では一般的な用語になっているのでほとんどの方がおわかりになっていると思いますが、誤解もあるので説明を加えておきましょう。夫婦の一方から見た他方、つまり、夫から見れば妻 妻から見れば夫がこれに当たります。しかし、「配偶者」と言えるためには、婚姻届を市町村役場に提出していなければなりません。
   外見上は夫婦のような生活をしていても、婚姻届が出されていない場合には配偶者とは言わ

ず、「内縁の妻」、「内縁の夫」と呼んでいます。この方々には相続権がありませんので要注意です