自筆証書遺言と公正証書遺言(5)

    相続人の確定①

  パパさん、今日は相続人を確定するというお話からだったね。
 そうだね。それでは早速始めようかな。民法には相続人となるべき人とその順位とが決められている。
第一順位から第三順位まであるんだな。まず、第一順位だが、「配偶者と子供」。第二順位としては「配偶者と直系尊属」、つまり父母・祖父母・曾祖父母だね。第三順位としては「配偶者と兄弟姉妹」ということになっている。
  その順位というのには、いったいどういう意味があるの?
  順位というのは、相続人になれる優先順位ということなのさ。つまり、第一順位の相続人がいれば第二順位、第三順位の人は相続人になれないんだ。言葉を換えて言えば、第一順位の相続が発生することによって第二順位、第三順位の相続は発生しないということになる。
第二順位の相続についても全く同じことで、第二順位の相続が発生すれば、第三順位の相続は発生しないというわけさ。
  な~るほど。そういうことなのか! では、配偶者がいなくて子供だけいるという場合にはどうなるの?
  その場合には子供だけが相続人になる。子供の数は関係ないね。一人であろうと五人であろうとかまわない。ただ、相続分については一人であれば全財産をその子だけで相続することになるが、五人の場合には平等に五等分することになるんだな。
これを見ると、第一順位から第三順位までの中で配偶者は常に相続人になれるんだね。
どうしてそうなっているの?
ジュンはいいところに気がついたね。
誰が相続人になっても配偶者はその人とともに必ず相続人になれるんだな。
これについては次のように考えれば理解できると思うよ。
夫婦で一定の財産を蓄積した場合、それは夫または妻の協力があればこそできたわけで、一人で形成できたわけではない。たとえ妻が専業主婦として家事に専念し、サラリーマンの夫が働いて得た給与所得を貯蓄したとしても、それは妻が家にいて食事の支度や掃除、洗濯、子育てなどをしてくれたからこそ出来たことなんだ。
だから形の上から見れば夫のお金を積み立てたように見えるけれど、実質的には夫婦の協力によって出来た財産ということになるのさ。
それと同様に妻から見れば夫が一生懸命働いて給料を得ればこそ生活が成り立ち、財産形成も可能になったというわけだ。だから、夫か妻のどちらかに相続が発生した場合には、残された方は当然にその人の財産を受け継ぐ権利があるというわけなんだ。
  な~るほど! 確かにそう考えれば配偶者が常に相続人になるということがよく理解できるね。 
ところでパパさん、もしも、子供が三人いたとして、そのうちの一人が親よりも先に亡くなっていた場合はどうなるの? 
また、第二順位で両親の他におじいちゃんもおばあちゃんも健在だった場合の相続関係は? 
更に第三順位で兄弟姉妹のうちすでに亡くなっている人がいた場合の相続人はどうなるの?
  おやおや、だいぶ複雑な質問をしてきたね。でも、実際にはそういう場合もあるので大切なことだから触れておくことにしよう。
まず、最初の質問の三人の子供のうち一人が既に亡くなっているという場合だが、その人に子供(つまり孫)がいるかいないかによって相続人が違ってくるね。
亡くなった子供に子供(孫)がいなければ、生存している二人の子供で財産を分けることになる。
亡くなった子供にこども(孫)がいればその孫が親に代わって相続人になるんだな。つまり二人の子供と孫で相続することになる。これを「代襲相続」(だいしゅうそうぞく)というんだ。
ただし、相続分については孫は亡くなった自分の親が相続する割合を相続することになるから、二人いれば親の受け取る権利を二等分、三人なら三等分することになるね。

 

◆解説

1. 相続を語る場合「被相続人」という言葉がしばしばでてきます。この言葉も既にどなたもご存じのこととは思いますが、念のために触れておきますと、これは相続される人、つまり死亡された方のことを意味しています。
この被相続人の対極の立場にある人が「相続人」ですが、まだ確定していない間は「推定相続人」(すいていそうぞくにん)と呼ばれることもあります。

2. 次に「親族」という言葉もよくつかわれています。民法によりますと親族とは「六親等内の血族」・「配偶者」・「三親等内の姻族」と規定されています。
 そこで、まずここに出てくる「親等」(しんとう)とは何かということを知らなければなりません。親等とは簡単に言えば、親子、兄弟姉妹、伯父叔母、甥姪などの血縁関係者の遠近を測るための尺度であり、親と子の間を一世代としてその世数を数えることにより表すことができる単位と理解しておけばよいでしょう。
しかし、こう言ってもよく分かりませんね。具体的に見ていきましょう。
まず自分から見て両親は一世代遡りますので、この関係を一親等と言います。親から見た子供も同じく一親等です。
 では、祖父母と孫の関係はどうなるのでしょうか。
祖父母の世代から孫の世代まで行くには、まず子の世代まで下がって一親等、更に孫の世代まで下がって一親等で合計 して二つの親等を移動することから二親等ということになります。
伯父や叔母については自分の父母と同じ世代ですから、まず共通の世祖である祖父母まで二世代遡り、そこから一世代下がりますので合計して三つ移動したことになります。つまり三親等ということになりますね。
これらの人々は血縁関係でのつながりであることから「血族」とよばれるということは前回お話した通りです。ですから親族である「六親等内の血族」というのはとてつもなく広い範囲の人たちを意味していることになりますね。
ちなみに、六親等の直系尊属とはどのようなご先祖様に当たるかというと、まず父母、祖父母、曾祖父母、(私たちが現実に知ることのできるのはせいぜいこの辺りまででしょう)。
しかし更に高祖父母、高祖父母の父母、高祖父母の祖父母と自分から見て六世代遡ったおじいちゃんおばあちゃんまで親族の範囲ということになります。
今度はそれを直系卑属で見てみますと、子、孫、曾孫、玄孫、来孫、昆孫と六世代下がることになります。更に傍系血族となると・・・! もうこの辺でやめておきましょう。
つまりご先祖様にしろ、これから生まれてくるであろう子孫にしろ、存命中には絶対にお目にかかることのない人たちです。このように広い範囲までを親族と定めなければならない実益というものはあるのでしょうか?
 次に、血族に対して配偶者側の関係を「姻族」(いんぞく)と言うことについては既に触れました。
結婚した夫妻の間には親等の異動はありませんから、夫から見た妻の親は姻族一親等、祖父母は姻族二親等、伯父叔母は姻族三親等です。そして配偶者を含めてここまでが「親族」ということになるわけです。
   この「親族」や「親等」という言葉は相続以外でもよくつかわれますので知っておくととても便利です。