自筆証書遺言と公正証書遺言(6)

    相続人の確定②

  パパさん、前回はジュンの質問についての回答が途中までだったね。
 そうだね。内容は第二順位の相続人が両親のほかにおじいちゃんもおばあちゃんも健在だった場合と第三順位で兄弟姉妹のうち既に亡くなっている人がいる場合の相続人は誰かということだったね。
まず、前者の場合には両親が祖父母より先に相続人になる。
つまり、被相続人と親等の近い方が優先されるんだな。次に後者の場合には既に亡くなっている兄弟姉妹に子供がいるかどうかで相続人が違ってくる。子供がいなければ生存している兄弟姉妹だけが相続人になる。子供がいればその子供(つまり甥姪)が亡くなった自分の親に代わって親の兄弟姉妹とともに相続人になる。
これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)というのさ。無論配偶者がいれば一緒に相続人になるわけだ。
 ついでに言うと、甥姪も亡くなっていたという場合その人に子供がいたとしてもその子には代襲相続はないんだな。
 2月号で解説した「笑う相続人」には相続権を与えないというわけさ。
  そういうことなのか~! この他に相続人について注意すべきことって何かあるの?
  養子を迎えて縁組届をしてある場合には、その養子も実子と同等の相続権がある。
よく孫を養子にするという例もあるが、その場合には孫が自分の親と同等の立場で相続権を取得することになるんだな。
またこんな例もあるよ。あるご夫婦に子供ができなかったので養子を迎え届け出をしていた。
しかしその後、このご夫妻と養子との間の折り合いが悪くなり養子は実家に帰ってしまったが、うっかり縁組解消の届け出をしていなかった。このため、外見からすると離縁したように見えるけれど、実質的には養子のままになっていたわけだから親子関係の縁は切れていないことになる。
そういうことに気が付かず数十年を経て相続が発生したときにその養子が相続権を主張したというわけさ。
 こういう場合には、遺産分割協議もなかなか面倒な話し合いになるね。
  そんなこともあるんだね~!
  まあ、めったにあることではないが、手続きというものはその時々に応じてしっかり澄ませておかないと権利関係が複雑になるということだね。特に相続関係はやるべきことを先延ばしにしたり、うっかり忘れたなんてことがあると難しい問題が生じることもある。遺言も同じことで、自分の財産をどのように処分するかを記しておくことによって、煩わしい相続手続きを解消できるとともに、無用の紛争を防止することにもつながるわけだな。最近は知識が普及してきたことから遺言を作る人が多くなっているね。
  確かに煩わしい手続きや面倒なことは後回しにしたがるものだが、そうすることによって後々もっとも大変なことになるんだね。
  そういうことだ。さてと、これで自分の相続財産と相続人が確定できたわけだ。
 次にすることは、いよいよ実際に遺言を書くわけだが、ここですぐに清書用紙に書き込むのはまだ早いね。何しろ自分がこれまでに築いてきた大切な財産をどのように相続させるかという重要な局面なのだから、まずはじっくり考えなければいけない。
 それに、書き間違いを訂正するには決められた方式があり、それによらなければ無効になってしまう。だからまずは原案を作ってみることが大切で青書はその後さ。
 はじめに雑記帳やパソコンなどで自分が財産を分けてあげたい人の名を全部書き出してみる。
相続人の他にもあげたい人や団体があればそれも書きだす。
次にどの人に何をあげるかを名前の下に書いていく。
ただ頭の中で考えているだけではだめだね。文字にすることが大事なのさ。
これによって考えがよくまとまるんだな。
 財産を分けるにあたっては注意しなくてはならないことがいくつかあるが、これについては次回に話すことにしよう。

 

◆解説

1.  相続が発生すると被相続人の財産はその時から相続人全員に引き継がれ共有状態になります。
 それを分けるには遺言がない限り相続人同士で遺産分割協議をしなければなりません。しかし、現実問題としてこの話し合いが実に難しいのです。

よく「相続」を「争続」という当て字を使って表現されることがありますが、遺産分割協議が難航するためにこれまで仲の良かった兄弟姉妹が以後疎遠になってしまうことを揶揄している言葉なのです。
 遺産を分ける話し合いというのは仲が良い相続人同士でも気の重い事なのです。むしろ仲が良いからこそ、これから先もその関係を崩さないように親が十分配慮すべきことなのです。
 そのためには無用の遺産分割協議などしなくて済むように遺言でしっかり財産分けをしておくよう心がけてください。


2.  「我が家は財産が無いので相続で揉めることはない。」或いは「遺産は法律どおりに分ければよいので何も心配はない。」ということもよく聞く言葉です。
 皆様方は如何でしょうか? もしそのようなお考えの方がおられましたら本日よりそのお考えを変えられることをお勧めします。
  まず、「財産が無いので・・・」というときの財産とは数百万円から数千万円、あるいは億単位の金額をイメージしているのではありませんか?。
 しかし、相続争いは金額の多寡ではありません。私の知る例でも10万円をめぐって骨肉の争いをしている兄弟がありました。その方達が明日のパンを買うお金にも困っているというならばともかく、配偶者も子供もおり、仕事も住居も不足していない状況の中での争いです。
 相続とはそういうものなのです。「小さい時に兄貴かいじめられた」とか、「親は弟ばかり可愛がっていた」とか、「姉に比べ自分が嫁ぐ時には嫁入り道具が少なかった」とか、普段では話題にもならないようなことが相続の時に一気に感情問題として反映されるものなのです。
 これまでの人生の中での様々な思惑が絡んでのことですから10万円がたとえ5万円になっても同じことが起こるわけです。


3.  「財産が無い」というとき、意外にも見落としているのが土地や家屋です。
 これらは相当の資産価値があるにもかかわらず、なぜか相続財産として念頭にないということがよく見受けられます。
 親と同居している長男などは土地と家屋は当然自分のものと思い込んでいる方もいますが、他に同順位の相続人がいればそうはいきません。その人との間で分割協議をしなければならないのです。
 昔はこういう場合「ハンコ代」といって他の相続人に何がしかの現金を与えて相続放棄をしてもらうという例が多かったのですが、最近では権利意識の高まりからわずかばかりの代償金では納得しない場合が多くなってきています。
 こういう場合でも、他に現金や預貯金があって分けてあげられれば納得も得られるでしょう。しかしそれが無い場合には土地や家屋を売却して現金に換価しそれを分けるということにもなりかねません。
 対策は十分とっておくことが必要です。