自筆証書遺言と公正証書遺言(9)

    遺言書の書き方①

 前回は「遺言書」と表題を書いておく方が間違いがないというところで終ったね。
  そうだね。では次に進むとしようか。いよいよ本文を書くことになるが、ここでは財産ごとに箇条書きにする方がいい。書き方に決まりがあるわけではないが、その方が分かりやすい。よく使われる方法として、条文形式がある。第1条、第2条というやり方さ。自分は慣れていないので、違和感があるという場合には、一、二、三、という表示方法でもいい。要は誰が見てもわかるように書けばいいんだな。
  確かに、だらだら書くより、区切って書いてある方が読みやすいよね。
  そういうことだ。次にその第○条の後に、その箇所には何が書かれているのかを表示しておくと更にいい。
例えば(不動産の相続)なんて書くと、ここでは不動産関係について書いてあるんだなということがすぐに認識できる。そして、相続人に対しては「相続させる」という表現が最も良い。相続人以外の人に財産をあげる場合には「遺贈する」(いぞうする)という表現を使う。つまり、こんな風に書けばいいね。


               遺 言 書

 遺言者山川太郎は次のとおり遺言をする。

 第1条(不動産の相続)
   私の所有する下記不動産を長男山川一郎に相続させる。
    不動産の表示
     所在    ○○県○○市○○○
     地番    123番1
     地目    宅地
     地積    123,4平方メートル

     所在    ○○県○○市○○○123番地1
     家屋番号 123番1
     種類    居宅
     構造    木造瓦・亜鉛メッキ合板葺2階建て
     床面積   1階  88,8平方メートル
           2階  88,8平方メートル

 第2条(金融資産の相続及び遺贈)
   ○○銀行○○支店の預金債権全額を二男山川次郎に相続させる。
   ××銀行××支店の預金債権全額のうち、その三分の一を長女里山松子に相続させ、
   三分の一を孫の里山武夫に遺贈し、残り三分の一を里山梅子に遺贈する。

  な~んだか、堅苦しい表現だね!
  遺言の効力が発生するのは遺言者が死亡したときだ。つまりこの世に存在していないのだから、遺言書に書いてある内容について「これ、どういう意味?」な~んて質問ができない。だから、誰が読んでも意味内容がはっきり分かるように書いておかなければいけない。そうしておかないから、解釈をめぐって紛争にもなるんだな。

 

◆解説
 

    成年後見制度 
.  平成12年4月、国は、判断能力の衰えた人を保護する制度として、これまでの禁治産・準禁治産制度を改めて、新しい成年後見制度を創設しました。高齢社会にはとても有用な制度であり、今回はこれを取り上げてみることにいたします。

2.  まず、旧禁治産・準禁治産制度とはどのようなものであったかを簡単に触れて見ましょう。
禁治産者・準禁治産者とは、判断能力が無くなったか、衰えた人に対し、家庭裁判所が申し立てにより宣告をして、それぞれ後見人・保佐人をつけて保護するというものです。しかし、この制度には様々な問題点が内在しており、とりわけ、宣告がなされると戸籍に記載されるため、申し立てを躊躇してしまうという場合も少なくありませんでした。
このため、あまり活用されなかったというのが実情です。そうした折、ノーマライゼーションを目指す現代社会の要求に合った制度を創設しようとの機運が生じ、その結果生まれたのが成年後見制度です。その背景には、我が国がこれまでに経験したことのない少子高齢社会の到来が大きな要因となっております。お年寄りが増える中で、認知症などで判断能力が低下された方への福祉の充実と権利擁護の観点から今回のような大改正が行われたわけです。

3.  それでは成年後見制度とはどのようなものなのかを具体的に見ていきましょう。この制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の二つから成り立っております。まず、法定後見制度ですが、本人やご家族の申し立てにより家庭裁判所が適任者を選任するもので、程度に応じて、判断能力が不十分な場合(俗にいう「まだら呆け」の軽度の方)には「補助人」を、判断能力が著しく不十分な場合(いわゆる「まだら呆け」の重度の方)には「保佐人」を、判断能力が全く無くなっている場合には
  「後見人」を選任するという方法です。
これに対し、任意後見制度は本人が判断能力のある間に、自分が選んだ人との間で任意後見契約を結び、いよいよ判断能力が無くなったときに任意後見監督人を家庭裁判所に選任してもらうことによって効力が生じるというものです。両者の大きな違いには成年後見人を本人の意思で選ぶか裁判所に選んでもらうかということにあります。
本人が選ぶ場合には、自分が信頼している人(例えば息子や娘、友人など)を直接選ぶことができますが、法定後見の場合には必ずしもそういうわけにはいきません。よって、早い時期に任意後見契約を結んでおくことがお勧めですね。なお、「委任契約」と「任意後見契約」をセットで結んでおくと、更に大きな効力を発揮します。つまり、認知症にはなっていないが身体が不自由で誰かの助力が必要と言う場合には「委任契約」を適用し、いよいよ認知症になった場合には「任意後見契約」に移行させればよいわけです。任意後見契約は公証役場の公証人さんが公正証書で作成し、東京法務局に登記されます。戸籍には記載されませんので、プライバシーがまもられます。

4.  法定後見人や任意後見人が行える任務は、概ね次のようなことです。
  銀行や証券会社との契約の締結・変更・解除・貸金庫の開扉等。
  家賃・地代・年金の受領・支払い。
  物品の購入・支払い。
  保険契約の締結・解除・保険料の支払い・受領等。
  医療契約・入院契約・介護契約・施設入所契約等。
  要介護認定の申請・承認・異義申し立て等。
  シルバー資金融資制度と福祉関係融資制度利用等。
  登記及び供託。
  住民票・戸籍謄本類・印鑑登録証明書等の請求。
  税務申告・支払い。
  登記権利証書・預貯金通帳・有価証券・印鑑・印鑑登録カードなどの保管・使用等。
  遺産分割の協議・遺留分減殺・相続放棄・限定承認に関する事項等。
  紛争の処理・訴訟行為の委任・公正証書の作成嘱託等。
  復代理人の選任・事務代行者の指定等。
  その他。
   このように見てくるとほとんどのことが出来ますね。とても良い制度です。